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信仰と人生

信仰に生きる 043

2025年5月9

タケサト・カズオ


 To you,

who have become a medical intern
研修医になった君へ

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本ページ下部に​英訳掲載

​​English translation is posted at the bottom of the page.

* * *

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* * *

研修医になった君へ

君の若き日に君の造(つく)り主を心に刻め。

災いの日々がやって来て、「私には〔もはや〕喜びがない」と言う齢(よわい)に近づかないうちに。

(旧約聖書コヘレトの言葉 12章1節)

〔イエス〕は答えて言われた、

マルタよ、マルタよ、あなたは色々なことに気を遣(つか)い、思い煩(わずら)っている。

しかし、無くてはならぬものは一つだけである。

 

〔妹〕マリヤは〔その〕良い方を選んだのだ。それを取り上げてはならない」。

(新約聖書ルカ福音書 10章 41,42節)

*  *  *

1

5月の連休に帰省してくれて、ありがとう。

 

今回T 君の初任給でご馳走を頂くことができ、お母さんと共にとても喜んでいます。


飯山の北竜湖と野沢温泉村へのドライブは天候にも恵まれ、最高でした。
鏡のような湖面、透きとおった水、澄んだ青空を眼
(まなこ)に映しながら、新芽の湖周を散策。その後に食したおにぎりの味の格別さ!


野沢温泉村の散策では、温泉街の活気、坂道と横文字看板の多いことに驚いた。銘菓「温泉まんじゅう」も美味しかったね・・・。


また、友人のことを率直に話してくれて、ありがとう。正直言って、少し驚いたけれども、いい加減にはできない事柄なので、少し時間をかけて結論を出すのが良いと思っています。

​2


さて、これから医学研修が進み、患者さんと向き合う中で、おそらくHP[ネットエクレシア]のテーマと通じるようなことが問われる場面に、少なからず出会うことと思う。


特に大学病院には、難治性疾患の患者さんたちも多いだろう。そしてそれらの人々の中には、大きな〈人生の問い〉に直面し、困惑している人もいるのではないだろうか。

どうして自分は、このような病気に苦しまなければならないのか?


どのようにして自分は、この病気と向き合ったら良いのか?


自分は、何を人生の拠(よ)り所として生きて行けばよいか?

このような「のっぴきならない」問いを抱えながら生きている人々と向き合わなければならない場面に、たびたび遭遇(そうぐう)することだろう。


しかしよく考えてみれば、実はこれらの問いは特定の人々だけのものではなく、人間誰しも何時(いつ)かは直面せざるを得ない根本的な〈人生の問い〉ではないだろうか。

しかもこれらの問いに向き合うことを「先送り」している人々が、ことのほか多いのではないかと思う。


おそらくその理由は、これらの問いに対しては、いわゆる解決マニュアルなどは存在せず、「一筋縄(ひとすじなわ)ではいかない」ことを直覚しているからではないだろうか。

 

確かに、これらの問い対する即効的な解法はなく、自らの人生の中で時間をかけて探究すべきもののようです。

3

この問題の大切さに気づきながらも、私たちはついつい、その探究を「先延ばし」しがちです。

しかしいつまでもこの探究を「先延ばし」しても良いものだろうか。

 

中世ヨーロッパの格言に、《メメント・モリ》(死を銘記せよ)というものがあります。

 

中世末期(14~15世紀)は、〈死と不安の時代〉でした。

当時、ペスト(黒死病)の流行により、ヨーロッパ人口の1/4が失われたとも言われています。幼児の死亡率も高く、驚くことに平均寿命は25歳程度だったとのことです。

このような時代背景のもと、《メメント・モリは人々のあらゆる生の局面に響きわたっていた、と言われています(江口再起著『ルターと宗教改革500年』NHK出版、2017年、21項)。

 

しかしこれは、決して中世だけの問題ではありません。

2000年の新型コロナの世界的流行、特にその初期には悲惨な出来事が世界中で無数に起き、人々は恐怖の中に置かれました。

特に中国では、流行の震源地である大都市・武漢がまるごと隔離・閉鎖され、十分な食料もなく、また医療も受けられずに、多数の人々が亡くなりました。

私たちの周りでも、著名な有名人たちが思いがけなく新型コロナに感染し、亡くなりました。

しかし、地球規模のパンデミックを取り上げるまでもなく、私たちの人生が何時、どのような形で困難に直面したり、終わりを迎えるかは、誰にも分かりません

ですから苦難や死を前提としていない人生は、これらに直面したとき、もろくも崩れ去らざるを得ません。

 

このような人生の現実を踏まえ、先の格言《メメント・モリ》は、苦難や死に直面しても奪い去られることのない《永遠なるもの(=無くてはならぬ一つのもの)を基礎として、その上に人生を築きなさいと勧めている(または警告している)のではないだろうか。


しかし問題の大きさに戸惑い、ためらって探究を先延ばしし、いつの間にか年老いてしまい、実際に問題に直面したときには考える脳力も気力もない。

これでは、賢明な対処法とは言えないのではないだろうか。

4

では、どうすればよいか?

一口に〈探究〉とはいっても、右往左往したり、当てもなく、ただ「あちこち走り回ればよい」というものでもありません。 

冒頭に(かか)げたように、古(いにしえ)の賢人は、「君の若き日に君の造り(=創造者)を心に刻め」という言葉を遺(のこ)しています。

またイエスは、思い煩(わずら)うのではなく、「無くてはならぬ一つもの(=根源的なもの)に集中せよ」と教えています。


ですから思い煩ったり、むやみに走り回る」のではなく、むしろ腰を落ち着けて、先達たちが探究の途上で残していってくれた道標(みちしるべ)を頼りに、一歩一歩、進むのが賢明ではないだろうか。

私はそう考えています。


そのような先達として、私たちに近いところでは、三谷隆正(みたに・たかまさ、1889~1944年)の名前をあげることができます。

5

三谷隆正とは、どういう人物か。

彼は旧制一高(現、東京大学教養学部)その他で教鞭(きょうべん)をとった人で(ドイツ語教師、哲学者。内村鑑三門下)、教師仲間からも学生からも厚く信頼された人物である、と伝えられています(拙HP「人物紹介 003 三谷隆正」参照)。

三谷のことは、若き日に、私の直接の恩師である杉山好(よしむ)先生(当時、東京大学教養学部教授、百合ヶ丘聖書研究会主催)と伊藤邦幸(くにゆき)先生(当時、聖隷三方原病院整形外科医師、JOCSワーカー、風声寮主宰)から教えてもらいました。

三谷は、1944(昭和19)年に天に召されています。だから、もちろん私は直接、彼にお会いしたことはありません。しかし、彼は私にとって無くてはならぬ人生の《恩師》(書物上の恩師)の一人です。

三谷は、まれに見る誠実さと真実さで人生の意味と真理、そして人生の苦難について探究した人です(自身も、人生の苦難を舐め尽くした)。そして後世のわれわれのために、珠玉(しゅぎょく)の言葉を残してくれた人です。
 

三谷の文章はどれも素晴らしいですが、私は特に、『病床の友に送る』(拙HP「信仰に生きる 005」)と『家庭団らん』(同「信仰に生きる 039」)から大切なことを学びました。そして今も、学びつつあります。

もしかして君にとって三谷の文章は、今は縁遠く感じるかも知れません。けれども、普段から彼の文章に親しんでおくと、いざという時にそれは〈導きの星〉となるに違いない私は確信しています。

 

仕事を終えて、少しゆとりのある時にでも彼の文章を読んでくれることがあれば、嬉しいです。

きっと彼は、君の期待を裏切らないだろう。

​そのことだけは伝えておきたいと思います。

 

話が長くなったので、今回はこの辺でおわりにします。

末筆ながら、君の研修生活の上に、神の守りと導きを祈ります。


See You Again.

元気で!

2025年5月5日

タケサト・カズオ

* * *

英  訳

English translation

 To you,

who have become a medical intern

Remember your creator in the days of your youth, before the days of trouble come and the years draw near when you will say, “I have no pleasure in them”

Ecclesiastes 12:1

But the Lord [Jesus] answered her, “Martha, Martha, you are worried and distracted by many things, but few things are needed—indeed only one.

Mary has chosen the better part, which will not be taken away from her.”

Luke 10:41-42

* * *

1

Thank you for coming home for the May holidays.

This time, you invited us, your parents, to dinner with your first paycheck as a working adult, and we were both very happy.

Our drive to Lake Hokuryu in Iiyama and Nozawa Onsen Village was blessed with great weather and was absolutely amazing.


We strolled around the lake surrounded by fresh greenery, with the mirror-like lake surface, crystal clear water, and clear blue sky reflected in our eyes. The rice balls we ate afterwards were absolutely delicious!

When we walked around Nozawa Onsen Village, we were surprised by the liveliness of the hot spring town, the many slopes and signs with foreign letters. The famous sweet "Onsen Manju" was also delicious...

Also, thank you for being so honest with us about your friend. To be honest, we were a bit surprised, but it's not something you can take lightly, so we think it's best to take some time to reach a decision.

2

By the way, as your medical training progresses and you interact with patients, I believe you will encounter many situations that will ask you questions that are related to the theme of this website [Net Ecclesia].


University hospitals, in particular, have many patients with intractable diseases, and among these people, there are likely to be some who are faced with big "questions about life" and feel confused.​


​"Why do I have to suffer from this disease?"
"How should I deal with this disease?"
"What should I rely on in my life?"


You will often find yourself confronted with people who are living with these kinds of "inevitable" questions.


However, if you think about it carefully, you will realize that these questions are not just for certain people, but are fundamental "life questions" that all human beings must face at some point.


Moreover, I think there are a particularly large number of people who are "putting off" facing these questions.


Perhaps the reason for this is that there is no so-called manual for solving these questions, and people intuitively realize that they are not going to be solved easily. 


Certainly, there are no quick and easy solutions to these questions, and they seem to be things that we need to explore over the course of our own lives.

3

​Even though we are aware of the importance of this issue, we tend to put off our research. 

But is it really okay to keep putting off this exploration forever?


There is a saying in medieval Europe: "Memento Mori" (remember death).

The late Middle Ages (14th to 15th centuries) was a time of death and anxiety.


​At that time, it is said that a quarter of the European population was wiped out by the plague (Black Death). The infant mortality rate was also high, and surprisingly, the average life expectancy was only about 25 years.


Against this historical backdrop, it is said that "Memento Mori" resonated in every aspect of people's lives (Eguchi Saiki, "Luther and 500 Years of the Reformation," NHK Publishing, 2017, p. 21).
 

However, this is by no means an issue that only occurred in the Middle Ages.

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