― まごころで聖書を読む。そして、混迷の時代を神への信頼と希望をもって、力強く前進する ―
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最終更新日:2024年11月5日
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<信仰と人生
信仰に生きる 004
2018年6月20日改訂
矢内原忠雄
現代語で読む
〖 療養5則 〗
今夏(1944年)の〔富士山麓〕山中〔湖聖書〕講習会が〔学童疎開のため会場が使用できず、〕中止となったことは、前に報告したとおりであるが、この講習会を楽しみにして、少し前から山中〔湖〕に来ていた一人の若い姉妹がいた。
〔この姉妹は、〕結婚後まもなく夫が出征(しゅっせい)し、その後〔、夫が〕サイパン島で戦死した〔との〕報告が届いたのは〔、この〕8月半ば頃であり、〔それと〕同時に、自分は病臥(びょうが)の身となった。
私は、9月1日から20日まで、毎朝その病床の傍(かたわ)らで15分間ほど、聖書の御言葉(みことば)を語った。
いよいよ、9月20日、私が山を下りる日が来て最後の朝、私が語ったのは、〔旧約聖書〕詩編第4編8節(注1)であった。
その後(のち)、私は以下の療養5則を残して、病床の姉妹に別れを告げたのであった。
1.神の守りを信じて、心を平静(へいせい)に保つこと。
2.〔身体は〕聖霊(せいれい)の宮であることを思い、体を安静にすること。
3.病床にも、愛と祈りの生活はある。
4.過ぎ去ったことを思わず、朝ごとに新たに生きること。
5.常に喜び、事ごとに感謝し、すべての事に〔おいて神に〕信頼すること。
その後、〔1944年〕11月20日、私は大阪の講演に赴(おもむ)く途中、浜松で下車して郊外の聖隷(せいれい)保養農園を訪問した。
ここには、100名ほどの結核療養者がおり、その中には『嘉信(かしん)』の読者もいる。
請(こ)われるままに、私はその翌21日朝、マイクを通じて病者に短いお話をすることになったが、ふと思いついて、この療養5則の説明を繰り返すことにした。
小さな部屋の中で秘(ひそ)かに語った言葉がだんだん広く宣(の)べ伝えられるわけであるが、今〔回〕、本誌を通じて全国の病友諸氏にも聞いていただくことにする。
①病気療養の道は心身の安静にあると言われるが、どうすれば心を平静に保つことができるのか。
それは、「〔どんな時にも、〕神様が守っていてくださる」との信仰〔、神への信頼〕によるのである。
神様が自分の生涯を支え、自分の病床を囲み、憐(あわ)れみと恩恵(めぐみ)をもって自分を見守っていてくださるのだ(注2)。
この信頼が、私たちの心にまつわり付く思い煩(わずら)いと取り越し苦労を取り除いて、依(よ)り頼む者の平安を与えてくれるのである。
②病床で身体の安静を保つこともまた、容易ではない。とかく、わがままが出て、身体の安静を破る。
しまいには、苦痛の激しい時、あるいは病気があまりに長引く時など、自分は何のために身体の養生(ようじょう)をしなければならないのか、療養の意味そのものを疑う気持ちさえ起こるのである。
身体は、なぜ療養しなければならないのか。
それは、〔私たちの〕身体は聖霊(注3)が宿ってくださる宮(神殿)だからである。
身体は自分のものであって、〔しかも〕自分のものではない。それは、聖霊の宮として大切に扱わなければならない。
この信仰が、身体の安静を保つ根本的な秘訣(ひけつ)なのである。
③病気の療養は、ただ消極的な安静だけでは達成されない。
仕事がないこと、人生に生きがいが見いだせないこと、これこそが病者の最大苦痛である。
したがって、病者の生涯にも積極的な意味のあることを知ることが、病気療養の第3の秘訣である。そして、それは祈りと愛である。
人生において、祈りと愛〔すること〕に勝(まさ)る積極的・永遠的意味を持つ仕事はない。
病者は、一心にこの仕事に従事する特権を持っている。祈りと愛に励むとき、病者の生涯は健康者に勝るとも劣らない存在の光を放つのである。
④人の健康上、最も有害なのは、過去〔のこと〕を思って後悔することである。
自分の為(な)した過(あやま)ち、自分の受けた損失、〔その他、〕あの事この事を思い出して悔(く)やむことは、病床で手持ち無沙汰(ぶさた)の時、私たちをひどく悩ませる。
しかし、私の〔罪の赦しの〕ために十字架に死に、また私の〔新生の〕ために復活されたキリストは、〔ご自身の復活の生命(いのち)によって〕私の生命を朝ごとに新しくしてくださる。
過去については、〔神から受けた〕恩恵(めぐみ)だけを思い起こしなさい。
それは、〔神の〕恩恵だけが永遠だからである。
その他のことについては〔すべて忘れ〕、一朝(いっちょう)明ければ、また一日の〔新しい〕生命を感謝して〔受け〕、一日一日を新鮮に生きること。
これが、療養の第4の秘訣である。
⑤常に喜び、事ごとに感謝し、すべての事に〔おいて神に〕信頼することは、健康者にも病者にも、決して容易に実行できることではない。
しかし、それが人生の正しい生き方であり、病気療養の道でもあることは疑いない。
どうすれば、このような心の態度で生きることができるのか。
〔それは、〕ただ、信仰によるのである。
このような心の態度は、〔信仰なしで、〕持とうとして持てるものではない。
ひたむきに神を信ずる信仰は、自然と、このような心の持ち方を信徒の中に養(やしな)ってくれるのである。
〔そして、〕このような心を持って生きることができれば、その人は〔すでに〕人生の意義を全(まっと)うしたのであって、癒(い)えるも良し、癒えざるも良し、完全に病気に打ち勝つことができる。
これが、療養第5の秘訣である。
♢ ♢ ♢ ♢
(「療養五則」『嘉信』第7巻・第12号、1944年12月を現代語化。〔 〕、( )内は補足)
注1 詩篇 第4篇8節
「あなた(ヤハヴエ)はわが心に喜びを与えられた、
彼らの穀物(こくもつ)と酒の豊かな時にもまさる喜びを。」
(関根正雄訳)
注2 主への信頼の歌
讃美歌291番【主に委せよ汝が身を】(クリックしてYouTubeへ)
歌 詞
1.
主(しゅ)に委(まか)せよ、汝(な)が身を、
主はよろこび 助けまさん。
忍(しの)びて 春を待て、
雪は溶けて 花は咲かん。
嵐にも 闇にも
ただ委せよ、汝が身を。
2.
主に委せよ、汝が身を、
主は喜び 助けまさん。
悩みは 強くとも
み恵みには 勝を得(え)じ、
誠(まこと)なる 主の手に
ただ委せよ、汝が身を。
現代語訳
1.
主に委(まか)せよ、君の身を、
〔そうすれば、〕主はよろこんで 助けてくださる。
忍耐して 春〔の到来〕を待て、
〔そうすれば、必ず〕雪は溶けて 花は咲く〔時が来る〕。
〔だから〕嵐〔のとき〕にも 〔目の前が真っ暗〕闇〔のとき〕にも
ただ〔主に〕委せよ、君の身を。
2.
主に委せよ、君の身を、
〔そうすれば、〕主はよろこんで 助けてくださる。
〔たとえ君の〕悩みは 〔どんなに〕強くとも
〔主の〕み恵みには 勝つことはできない。
〔主の勝利は、君に約束されているのだ。〕
〔だから〕真実な 主の〔御〕手(みて)に
ただ委せよ、君の身を。
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注3 聖霊(せいれい)
神の霊のこと。
人間の助け手、弁護者。苦難の時の励ましと慰めの力。苦難や人生の戦いに立ち向かう勇気とそれに勝利する力の霊を与える。
聖霊は、復活のキリストの臨在(りんざい)と力そのもの、つまり、今なお生きて働かれるキリストご自身である(コリントⅡ 3:17参照)。
(参考文献:William Barclay,New Testament Words,SCM,PRESS LTD,1964)