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パンデミック対策 007

2021年7月10日更新

鳥海ヨシヲ

医学博士

 

新型コロナワクチンの副反応について

-友人の不安の声に答えて-

* * * * 


○○様

私も、新型コロナワクチンの予防接種を2回受けました。接種後、注射部位の痛みと軽いだるさを認めましたが、その他は問題ありませんでした。

さて、友人でワクチンへの不安を抱いている方が多いとのことですので、ご連絡いたします。


現在、高齢者に対しファイザー社製のワクチンが使用されており、大規模接種会場ではモデルナ社のワクチンが使用されています。

両ワクチンとも「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」と呼ばれるもので、新しい技術によって開発されたものです。

開発までに、実に約40年におよぶ基礎研究の蓄積があります。


mRNAワクチンの効果の大きさは、イスラエルクラリット研究所と米ハーバード大学の共同研究によって証明されています(注1)。

 

イスラエル国民120万人を調査したこの研究によれば、ファイザー社製のワクチンの発症(発病)予防効果は約94%重症化予防効果は約92%入院抑制効果は87%と非常に優れたものでした。

しかもこの効果は、70歳以上の高齢者を含めて年齢に関係なく、また糖尿病や高血圧、肥満など基礎疾患があっても変わりませんでした。

実際、イスラエルでは、2020年12月19日からワクチン接種を開始し、2021年1月初めには新規感染者数が11万人を超える日もありましたが、5月30日には1わずか4にまで減少しています。

 

そのためイスラエルでは、6月1日からマスク装着を含め、新型コロナを巡るほとんどの行動制限が解除されています。


20216月初め時点で、mRNAワクチンは世界で約20億回接種されていますが、今のところ、このワクチンに特異的で重大な副反応は報告されておらず、基本的に大きな心配はないと言えます。


具体的には、注射部位の腫れ・痛み、頭痛、発熱・だるさなどが比較的多く、注射の翌日に多く見られます。

まれにアナフィラキシー・ショック心筋炎・心膜炎があります。


この中で、問題になるのは発熱ですが、通常、若い人の2回目接種の後に見られることが多いです。37℃台の発熱が多いですが、時々、38℃台の発熱も見られます。

この発熱は、抗体産生等を促す免疫反応の一つでもあり、時間が経てば下がります。これにより重症化することは報告されていません。

接種後1~2日のワクチン休暇が勧められています。解熱鎮痛剤を使うこともできます(「アセトアミノフェン」が比較的安全。ただし主治医に要相談)。


その他アナフィラキシー・ショック(急激なアレルギー反応による血圧の低下など)は、約25~35万人に1人程度と言われています。

若い女性に多く、64歳以上では殆ど認められていません

その90%が接種後30分以内に起きていますが、アドレナリンの筋肉注射(太ももの外側に筋注)で回復し、医療者の先行接種(110万人以上)では、アナフィラキシー・ショックによる死亡例はありませんでした。

化粧品などに含まれるポリエチレングリコール(PEG)に対するアレルギー等が関係している、と言われています。

化粧品アレルギーのある人は、注意が必要です。

EUの欧州医薬品庁(EMA)は、因果関係は不明であるものの、ファイザー製で約63万回接種に1件(1億7700万回中、283件)とモデルナ製で約53万回接種に1件(2千万回中、38件)の割合で、心筋炎・心膜炎の発生を報告しています

発症は主に、2回目の接種後、接種から2週間以内(多くは数日以内)、若い成人男性に多く見られました(以上、「朝日新聞デジタル」2021年7月10日)。

心筋炎・心膜炎は、心臓の筋肉や膜に起こる炎症で、胸の痛み息切れ動悸などの症状を伴います。

大多数が、入院による安静臥床により症状が改善しています(「ケアネット」2021年7月9日)。

世界保健機関(WHO)は、ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎発生の報告に対し、「mRNAワクチンで新型コロナ感染症による入院と死亡が抑えられ、〔ワクチン接種の〕恩恵はリスクを上回る」との声明を発表しています(「ロイター通信」2021年7月10日)。


なお、「ワクチン接種後に、若い人が脳出血で死亡」などの見出しで、あたかも脳出血の原因がワクチン接種であるかのように断定的に報じられる場合がありますが、情報は鵜呑
(うの)みにせず、よく吟味(ぎんみ)することが大切です。

ワクチン接種と死亡の時間的な前後関係から、ただちに因果関係がある(「死亡はワクチンの副反応だ」)とするのは、誤りです。

ワクチンを打っても打たなくても、脳動脈瘤等があれば若い人であっても脳出血で死亡することがあります。

つまり、時間的な「前後関係」からだけでは(注射の後に何か有害事象が起きても)、両者に関係があるとも、ないとも言えないのです。


大切なことは、死亡例や重症例があった場合、原因は何かを確認すること(脳出血の場合、脳動脈瘤その他の基礎疾患の有無等)です。

また副反応によるものかどうかが問題となった場合、その事象が、一定の年齢、人口、観察期間を対象に(母集団の条件をそろえ)、ワクチンを打った場合(ワクチン接種群)と打たない場合(非接種群)とで比較し、増加しているかどうか(統計学的な有意差があるかどうか)を冷静に確認することです。


一方、ごく希ではあっても、通常、ほとんど見られないような特異で重大なものについては、医療者また研究者は、細心の注意を払って調査を続け、接種との因果関係を明らかにする必要があります。

なお、アストラゼネカ社のワクチン(ウイルスベクターワクチンと呼ばれる)はすでに、若い人で血栓症の副反応があることが確認されており(約25万人に1人)、各国で若い人への使用は避ける方向にあります(現在、日本では使用の予定はありません)。

メディアのニュースは、人々の耳目(じもく)を集めるように編集されていることが多いので、ワクチンの副反応についてもセンセーショナルな表現、記事が多いですが、これらに(おど)らされないことが大切です。

一方、私はmRNAワクチンは全く安全という立場も取りません

ワクチンはこれまで多くの病気(伝染性疾患)の流行を防ぎ、死者数を大きく減らし、今も感染症の流行を抑えています。

新型コロナの感染拡大防止のためにワクチンの開発を続け、普及させることが、大切であることは言うまでもありません。

一方、ワクチンは感染症にかかっていない健常人や基礎疾患のある人に接種しますので、非常に高い安全性が必要です。

パンデミックのためにワクチンの緊急使用だけが優先され、安全性の確認をおろそかにしてはいけません。

その意味で、ワクチン接種の進展(接種人数の増加)と共に、副反応情報(データベース)も定期的に更新されていくので、これらをしっかり確認するそして、科学的根拠に基(もと)づいて的確に評価する。

 

この作業を繰り返していくことが、非常に大切です(注2)


パンデミックは人口の7割以上が接種を終えるまで終息しない」と言われています(WHO欧州地域ハンス・クルーゲ事務局長、5/29AFP)。

世界と日本社会の苦境を考えると、ワクチン接種の問題は単なる個人の問題を超えて、対社会、対次世代の問題にもなっています。


私たちは現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の根本治療薬がない中、パンデミックという緊急事態のただ中にあり、しかも世界的な流行が続く限り今後、より悪性度の高いインド変異株の流行や、その後の新たな変異株登場の可能性まで想定する必要があります。

このような状況を踏まえた上で、マイナスとプラスを秤(はかり)にかけると(どこまで行っても、人間が行うことに「完全」はありません)、私は、できるだけ早く、一人でも多くの国民が予防接種を済ませることがとても大切だと考えています。

現在の自分家族(変異株では一人から家族全員に感染し、30代、40代でも重症化します)と社会を守り、その結果として次の世代に壊れた社会を残さないために。

参考までに、ご連絡いたします。


どうぞ、お元気で。

♢ ♢ ♢ ♢

(参考文献:日本感染症学会・ワクチン委員会「COVID-19 ワクチンに関する提言 第2版」2021年2月26日)

注1 ​イスラエルクラリット研究所と米ハーバード大学の共同研究

共同研究論文は、「Noa Dagan M.D. et al. BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Mass Vaccination Setting(April 15,2021),N Engl J Med 2021;384:1412-1423.」。

(『The New England Journal of  Medicine』誌は、世界で最も権威ある医学雑誌の一つ)

イスラエルは世界で最も早く、そして最も大規模にmRNAワクチン(ファイザー社製の接種を実施した。

 

この研究では、国民120万人(接種済みと未接種の60万人ずつの集団が調査対象)という圧倒的なデータを解析している。

この論文以外にも、mRNAワクチンの効果を実証する学術論文が多数ある。

注2 「COVID-19ワクチンに関する提言(第2版)」に際して 

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大の中、わが国でもCOVID-19ワクチンの医療従事者への接種が開始され、その効果が強く期待されています。

 

COVID-19感染拡大防止に、ワクチンの普及が欠かせないことは言うまでもありません。

 

しかしながら、ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスク(=リスクがゼロということ)はあり得ません

 

私たち一人ひとりがその利益とリスクを正しく評価、接種するかどうかを自分で判断することが重要です。

本提言は、COVID-19ワクチンついて、その有効性と安全性に関する科学的な情報を解説し、接種を判断する際の参考にしていただくために作成いたしました

日本感染症学会・ワクチン委員会「COVID-19 ワクチンに関する提言 第2版」より引用

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